本件においては、インターネット上のウェブサイト「転職会議」に投稿された以下の匿名の記事によって、原告らの名誉権が侵害されたかが争点となりました。
【問題となった表現】
本件記事〔1〕:
「とにかくパワハラ最悪。」
「気分屋すぎて仕事にならない。」
本件記事〔2〕:
「出来ないような無理難題ばかり押し付け当然出来なければキレる(笑)」
本件記事〔3〕:
「精神病んで辞める人多数でいつ訴えられてもおかしくない社長でした。」
本件記事〔4〕:
「後,ものすごく不潔でした。」
「社長の臭いでも気分悪かったです。」
「とにかくオススメできません。」
【裁判所の判断】
本判決は上記の各記事(投稿としては全部1つのものの一部)について、以下のとおり、社会的評価を低下させるか個別に検討した上で、本件記事が1回の投稿であることを認め、記事全体として事実摘示があり、原告らの社会的評価を低下させるものであると判断しました。
(本件記事〔1〕について)
「本件記事〔1〕の前段部分(「とにかくパワハラ最悪」)は,抽象的な記載であり,原告会社の代表者によるパワハラの具体的な事実及び態様を摘示するものではない。しかし,原告会社において,その代表者が従業員に対し頻繁にパワハラに該当する行為を行っているという事実が摘示されているものと解することができる。会社の中でパワハラが頻繁に行われていることは,その会社の評価を低下させることになるということができる。
本件記事〔1〕の後段部分(「気分屋すぎて仕事にならない」)は,原告会社の代表者が感情に左右され仕事の遂行に支障が生ずるという事実を摘示するものと解することができる。しかし,実際に仕事に支障が生ずるのであれば,会社として成り立っていかないのであり,後段部分は,投稿者の単なる不平不満を述べたものであることは容易に理解できるといえ,原告会社の社会的評価を低下させるものではない。」
(本件記事〔2〕について)
「本件記事〔2〕の前段部分(「出来ないような無理難題ばかり押し付け」)は,原告会社の代表者が客観的に遂行できない内容の業務を従業員に強制しているという事実を摘示しているものと解される。しかし,原告会社の代表者が従業員に無理難題ばかり強制しているとなれば,原告会社の業務は停滞するはずで,代表者がそのようなことを要求するとは考え難いという認識を持つのが通常であり,これを読んだ一般人は,投稿者の不平不満にすぎないと認識すると解される。したがって,当該部分の記載によって原告会社の社会的評価が低下することはない。 本件記事〔2〕の後段部分(「当然出来なければキレる(笑)」)は,原告会社の代表者は,従業員が無理難題ができなければ,怒り出すという事実を摘示していると解される。しかし,無理難題を要求するということが考え難いことは前記のとおりであり,無理難題でない仕事を従業員が行わない場合に指導を行うことは当然であって,これを読んだ一般人は,投稿者の不平不満にすぎないと認識すると解される。したがって,本件記事〔2〕は原告会社の社会的評価を低下させるものではない。」 |
(本件記事〔3〕について)
「本件記事〔3〕の前段部分(「精神病んで辞める人多数で」)は,原告会社においては,代表者のパワハラなどにより,多数の従業員が,精神を病んで退職しているという事実を摘示するものと解される。代表者がパワハラを行う会社であるということは,原告会社の社会的評価を低下させることは前示のとおりである。そして,多数の従業員がそのパワハラにより,精神を病んで退職しているという事実は,原告会社が職場環境として劣悪な会社であることを想起させ,原告会社の社会的評価を低下させるものということができる。」 「本件記事〔3〕の後段(「いつ訴えられてもおかしくない社長でした。」)は,投稿者の意見を述べたものにすぎず,事実の摘示ということはできない。 これに対し,被告は,会社には合わない人と合う人がいるのは周知の事実であり,投稿者と合わない人がいたとしても原告会社自体の評価を下げるものではないと主張する。しかし,本件記事〔3〕は,代表者自身がそのような問題のある人物であることを示しており,原告会社自体の評価に直結する記載であるということができ,被告の上記主張は採用できない。」 |
(本件記事〔4〕について)
「本件記事〔4〕の前段部分(「後,ものすごく不潔でした。」)は,原告会社の職場環境が不潔であることを摘示していると解される。不潔とは評価を要する概念ではあるが,清掃が不十分であるなどの事実を示すものと解することができる。そうすると,一般人は,上記記事により,職場環境が悪いということを想起し,原告会社の社会的評価を低下させるものといえる。このように,原告会社の評価を下げるものであり,原告Aの社会的評価を低下させるものとはいえない。 本件記事〔4〕の後段部分(「社長の臭いでも気分悪かったです。とにかくオススメできません。」)は,従業員が原告Aが発する体臭によって気分が悪くなったという事実を摘示するものと解される。この事実は,原告Aが体を清潔にしていないか衣服を洗濯していないということを想起させ,原告Aの社会的評価を低下させるものということができる。このように上記記載は,原告Aの評価を下げるものであり,原告会社の社会的評価を低下させるものではない。また,本件記事〔4〕の最後の部分(「とにかくオススメできません」)は,投稿者の意見を述べたものにすぎず,事実を摘示するものではない。」 |
(5)
「(5)上記のように,各記事を個別にみると,事実摘示のないもの,社会的評価を低下させるものでないものもあるが,本件記事は1回の投稿であることが認められ(甲3),記事全体として事実摘示の有無,社会的評価の低下の有無を判断すべきである。 原告会社に関しては,上記検討の結果からすると,その代表者が従業員に対し頻繁にパワハラに該当する行為を行い,そのため会社では精神を病んで退職している従業員が多数いるとの事実及び会社の職場環境が不潔であるとの事実が摘示されていると解され,いずれも原告会社の社会的評価を低下させるものといえる。 原告Aに関しては,上記検討の結果からすると,原告Aが発する体臭によって従業員が気分が悪くなったという事実が摘示されているものと解され,原告Aの社会的評価を低下させるものといえる。 以上のとおり,本件記事により,原告会社及び原告Aの権利が侵害されたことは明らかであるということができる。」 |
そのうえで、本件記事による摘示事実の真実性を否定して違法性阻却事由が存在しないと判断し、かつ、本件記事が意見ないし論評には当たらないと判断して、原告らの発信者情報開示請求を認めました。